Sekiyan's Notebook グローカルニュース〜経営の腑

セキやん通信「経営の腑」


「経営の腑」第422号<通算737号>(2025年5月9日)

企業経営めぐる「知的である病」 〜既得権益を捨て去れ〜
  出典:岩手日報「いわての風」寄稿記事(第21回目 2012年4月1日)

 先ごろ世界3位のDRAM(半導体記憶素子)メーカーのエルピーダメモリが破たんした。
 大手企業が束になり、経済産業省がバックアップした事業だが、この会社が先頭をきっていた領域で勝負せずに陳腐化の波にのまれてしまった―と、一橋大学の沼上幹商学部長は述べている。
 その原因は沼上氏が挙げている資金面もあろうが、真因は経営戦略の誤りにある。
 本欄で繰り返し述べている通り、事業経営は「構造志向」「未来志向」「外部志向」でなければならない。
 構造志向とは、もうかる仕組みを作ることだ。当社はもともと大手電機メーカー数社の事業再編の産物で、事業経営の根幹の価格設定権を実質的に親元が握り、もうかる構造ではなかった。
 また未来志向とは、3年後、5年後の我社の姿を意識しながら経営の継続に思いをはせることである。それなのに、公的セクターや金融機関からの支援の見返りで短期的な成果に重心を置かざるを得ず、全く将来を志向する状態ではなかった。
 外部志向については、そもそも企業活動の経済的成果は外部にしかないのに、護送船団方式の産物の性(さが)でコストしかない内部管理に腐心せざるを得なかった。
 つまり、はなから同社は企業経営の体をなしていなかったのである。
 では、なぜこんな企業を官民挙げて立ち上げたのか、最近の論客の声を参考に考えてみたい。
 「共同幻想」という概念で世に警鐘を鳴らし、半月前に没した気鋭の思想家吉本隆明氏を評して、人類学者の中沢新一氏は全国紙でコメントしている。
 「戦後知識人の抱えていた病を正確に診断し、そこからいかに脱出するかを問うてきた人だ。戦後知識人は『知的である』という病にかかっていた。思い込みを理論で体系づけて現実が見えなくなっていた」。
 まさに、この説で「戦後知識人」を産学官民金報の各分野のエリート?に置き換えると「知的である病」の姿がくっきりと浮き出てくる。この病を私流に解釈すれば「偏狭なプライドを増長させ、世の中の役に立たないばかりか、むしろ混乱を巻き起こす」病気である。
 また、やはり全国紙の匿名コラムでペンネーム遠来氏は、「『外需依存か、それとも内需中心か』『ものづくりか、情報や金融か』といった選択肢や対立軸ほど愚かなものはない」と指摘している。
 「内需部門も外需部門もそれぞれが努力すればそれでよい。対立したり、選択したりする問題ではない。ましてや政策の対象になることではない」と。
 そして、「『経済構造の転換』というキャッチフレーズも、誰が、どのようにといった具体性が伴ってこそ意味がある。抽象的なオピニオンは単なる騒音である。あるいは、グローバルなメーカーに向かって『ものづくりの時代は終わった』と指摘することも無意味だ。技術を大切にするかどうかは当事者が判断すればよい」
 ことほどさように、大仰に、かつピントはずれに門外漢が対立軸を設定するのは「知的である病」患者共通の症状のようだ。
 本質が市場活動にある企業経営に対し、「知的である病」にかかった素人衆が口をはさむという愚行からそろそろ脱却する時ではないかと思う。
 それには、もちろん患者達が厚くまとった「既得権益」という古い衣服は奇麗さっぱりと脱ぎ捨てなければならないが、それが後世への責務なのではなかろうか。
 途方もない国の借金状況をみても、本県の前知事時代のあまたの負の遺産をみても、他人事では済ませられない。これは、決して4月1日エープリルフールの戯言(ざれごと)ではない。

出典:岩手日報「いわての風」(2012年4月1日)寄稿記事へのリンク

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