雪が消えて農作業の始まる春になると、野山の野草、山菜の季節です。
 雪解けと共に食卓を飾るばっけ(ふきのとう)に始まり、わらび、ぜんまい、うど、たらの芽などがよく食べられます。早春の平地から初夏の須川岳の麓、深山のめぐみまで、春の香りが満載です。
 一番ポピュラーなのが「ばっけみそ」どこの家庭の食卓にも登場して、そのほろ苦さに故郷の味を感じる人も多いのです。
 数ある中でも山菜の王様といったらなんといっても「しどけ(もみじがさ)」です。多くの山菜が栽培され野性の味を失いつつあるなか、須川岳のやまふところの「しどけ」は、今でもその清列な苦味と柔らかさを失わず、しどけのおひたしはまさに一関の春の味です。



 三陸の春は「まつも」の収穫から始まる。最盛期は旧暦3月3日、生もいいけれど干しまつもを軽く火であぶって食べると、磯の香りが口中に広がり春を感じる一時である。まつも、わかめ、こんぶ、いわのり、ふのりなど海草のおいしい春である。
 なかでも特筆すべきなのは「めかぶとろろ」である。わかめの雌株の意味であろうが、さっと湯がいてきざみ、熱いご飯にとろろのようにかけて食べるとよい。しらすもまた春を呼ぶ三陸の味である。生のまま酢醤油で食べるのは浜の贅沢であろう。


 葉菜類が食卓に彩りを添え、山菜も一部を除いて終わりに近ずくと、夏の果菜類も出回りはじめる。夏の香りの代表として「ずんだ(枝豆)」がある。これは旧伊達藩領に伝わるもので、枝豆を茹でてすり潰し、砂糖を加えたものをもちなどにからめる。代表的なのが「ずんだもち」や「なすのずんだあえ」など、お盆には欠かせない一品です。



 北国の短い夏を彩る味はうに、ほや、まんぼう、かつおにまぐろが代表的な味である。寿司種として高価なうには、浜では「かぜ」と呼ばれている。あの、濃厚な味が苦手という方もいるそうだが、むしろ取れたてのかぜを生で食べることをお勧めする。市販のうにならば塩水に浸しながら食べると、浜の味に近づくだろう。
 珍味としてしられる「ほや」は生きの良さが決め手だ。日をおくとどんどん臭みが出てくるのでご注意を!ほやを食べたあとに水を飲むと、水が大変うまく感じられる。左党に言わせると「酒が旨い」となるそうだ。珍味といえばむしろ、まんぼうではないだろうか。獲れたては刺身で、酢味噌でいただきたい初夏の味だ。
 かつおもまぐろも夏の終わり頃が旬になる。黒潮に乗って悠々と太平洋岸を北上し、脂ののった刺身は絶品だ。


 山野の恵みが出揃う秋、食卓は豊かな秋の色で染まる。当然のごとく炊きたての新米がおいしい、北上川の流域の肥沃な土地でつくられた米は、それぞれに違った食味をみせる。ササニシキはあっさりとしたうまみがもち味だが、冷たくなっても味が落ちずお弁当などに最適だ。ヒトメボレはコシヒカリのようにもちっとしたおいしさが売り物、いずれも甲乙つけ難い。
 秋の味覚の逸品はやはり「芋の子汁」だろう。山形や仙台の「芋煮会」は有名だが、おいしさでは決してひけをとらない。というのも北上川沿いの前堀、中里地区の芋の子が絶品だからだ。この時期、どこの家庭でもそれぞれの味の芋の子汁が出される。みんな一家言をもっており、芋の子会などでは船頭が多くて大変。
 また、今では滅多に食べることが出来なくなったのが「かにばっとう」。はっとうはすいとんの方言で、「あまりおいしいのでお殿様以外食べるのはご法度だ」という話しがあるくらい、それに北上川のもずく蟹をいれたもので、いまでは大変な贅沢品になっている。
 これに秋の恵み―各種きのこが華を添える。しめじ、はつたけ、あみたけにはじまり、天然物の舞茸やなめこが加わり、里が霜が降りる頃まで楽しめる。



 さんまにいわし、あわびがあふれる浜の秋。流通の進歩で首都圏でも三陸の秋刀魚が気軽に買える時代だが、浜の珍味は生きのいい刺身に限る。また食べ飽きてくると、秋刀魚やいわしはつみれにしてもおいしい。
 珍味中の珍味といえば「あわび」があげられるだろう、中華料理の干鮑の最高級品は江戸時代から吉浜(きっぴん)あわびと言われてきた。吉浜とは三陸町吉浜のことだがこちらでは干して旨みを増すという習慣はなく、生の刺身が一番多い食べ方である。お父さんには「としる」(内臓)の煮物がうれしい酒の肴になる。これも鮮度の良いものはそのまま酢醤油がこたえられない。


 最近は年中出回っている野菜だが、一方で幼い頃に食べた各種の保存食も、やっぱり一関の食を彩っている懐かしい味だ。大根の干し葉、凍み大根や凍み豆腐、寒ざらしもちなどが代表的なもので、春の農繁期までは食べ続けていたものです。
 一関名産「曲がりネギ」は柔らかさと、独特の風味の良さが特徴で、その太く長く曲がった軟白部分のえも言われぬ甘さと柔らかさは、煮物、鍋物などでいただくと絶品です。
 また、一関は「もちの里」で、冬場を中心にもちを食べる機会が多いことでも知られています。なかでも12月は神々様の年越し行事が毎日のようにあり、その都度もちをついて供えては食べていました。



 名物「南部鼻曲がり鮭」、たらにどんこ、赤魚ほか一番の味覚の季節。漁業が現在のように発達してしまうと岩手の鮭よりもカナダのキングサーモンがもてはやされているようだ。焼き魚としては脂の乗ったキングサーモンは確かにおいしいが、新巻にするなら脂の少ない南部に限る。獲れたての生きのいいとこは刺身でも食べれる。1尾まるごと捨てるところのない肴である。近年、中骨の缶詰がブームになったこともあり、まだまだ知られていない食べ方がいっぱいある。
 冬の料理として欠かせないのが「どんこ汁」(えぞいそあいなめ)である。筒切りにしたどんこを野菜と一緒に鍋にいれ味噌で味を整えて食べる。さっぱりした栄養満点の味は万人に好まれる。
 また、「かき」も欠かすことの出来ない冬の味だ。知名度では広島や松島に劣るが、三陸のきれいな海で育ったかきは、味では決して負けてはいない。機会があったら是非一度、食してほしい味だ。

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