湯の丸高原・東篭の塔山(東籠ノ登山)

(2227.18m:長野県東御市大字滋野)

H20.8.16




見晴尾根から池の平湿原を望む
 灼熱の帰省地から戻る途中で、高原の空気に涼みたいと思い、いつもは美ヶ原や霧ケ峰に寄り道しているが、今回はヤナギランが咲き誇る池の平湿原を散策しようと湯の丸高原に寄り道することにした。

 湯の丸高原の起点は地蔵峠で高速道路の「東部・湯の丸IC」から北上するのが手っ取り早い。早朝に地蔵峠の駐車場に到着するが、気温は低く半ズボン、Tシャツでは寒くて居られない。帰省期間中は思い切り汗を搾られただけに、この涼しさはたとえようも無く嬉しく感動すら覚える。


登山口
 夏場の土日のみ運行するシャトルバスの始発まで待って、家内は空身、私もサブザックに軽食と水だけ詰め込んでバスに乗り込む。バスを待つ間に開花状況などを確認すると、ここ数日続いて雨が降りヤナギランが一気に見頃になったとのこと、また例年より花芽も多いと言われ期待が大きく膨らむ。車窓からの景色も進行方向に向かって右側が良いとのことで、運転手の後ろ側に陣取るが、乗客はさびしく我等夫婦と女性一人の3人だけだった。池の平湿原に近づく頃、車窓からヤナギランやマツムシソウが沢山咲いているのが見える。早く降りて歩きたい衝動に駆られるのを抑えて、車窓から展開される景色に食い入る。


マツムシソウ
 池の平駐車場に降り立ち、足取りが元気なうちに山に登ろうと、ヤナギランは後回しにして東篭の塔山を目指すことにする。今では珍しくなった天然のカラマツが生い茂る登山道は、風雪に耐えて曲がりくねった幹を大きく広げてその存在感を示している。真っ直ぐにひ弱に伸びたカラマツしか知らなかっただけに、この骨太のカラマツ林は印象的だった。


富士山遠望(手前に右から金峰山、朝日岳、国師ヶ岳)
 そんな樹林帯を抜けると一気に視界が開け、南側に展開する山々が一同に姿を見せてくれる。やや雲が多く雲海も荒れ模様の様相だが、その大海原の向こうには槍・穂高がまず同定できる。池の平の後方に美ヶ原から霧ケ峰にかけて平坦な山稜が左右に広がって見える。美ヶ原の後方に中央アルプスの山並みも見えるが、霞が強く山座同定まで出来ない。霧ケ峰の左には蓼科山から八ヶ岳の山並みがはっきり分かる。山並みが低くなった奥に高く聳えているのは北岳か。八ヶ岳の左裾が平らになり、やがて富士山の右裾に導かれて大きく高く富士山が天空に向かって背伸びをしている。富士山の前衛には金峰山、朝日岳、国師ヶ岳を同定。早く山頂に登りたいが瓦礫の路は焦ってもムダだ。登山道にはオンタデ、キンレイカ、イワインチン、アキノキリンソウなど那須・南月山の尾根に咲く花々がここでも一面に咲いている。加えてマツムシソウまで彩りを添えている。


山頂にて
 空身で何とかコースタイムで登った家内と一番乗りを期待したが、山頂には男性一人がコンロを出して食事の準備中だ。聞くと静岡から来て車坂峠から水の塔山を経て登ってきたという。また赤ガレのところには名前は知らないが沢山の種類の花が咲いていたと興奮気味に教えてくれた。でも私たちはこの山頂だけで往路を戻る予定だ。山頂には一等三角点(点名:篭塔山、標高:2227.18m)と山頂名を記した標識があり、そこからは遮るもののない360度の大展望が得られる。いつものように三角点にタッチして、山頂到着の儀式とし記念写真を撮る。期待の展望は残念ながら北側は雲に閉ざされ、辛うじて四阿山が丸い山頂部を覗かせている程度だ。浅間山も黒斑山の稜線上にガスのベールを解いて山頂部を覗かせるようになった。


山頂から池の平湿原、左奥に蓼科山が望める
 山頂で乾燥した涼風に吹かれていると、下界の暑さを忘れて幸福な気分に浸っていられるが、いつまでもこうしていられない。池の平湿原には沢山の花が待ってくれていると思うと、足取りも軽く往路を慎重に下る。駐車場に到着して監視員の方に花の状況や咲いている場所などをルート上に教えてもらって、散策ルートを適当に決め、いざ出発。


ヤナギランと池の平湿原
 湿原に向かうと直ぐに期待のヤナギランが沢山咲いている。この花は背が高くて目立つ色なので見映えがするが、それが群をなして咲いていれば尚更目立って美しく感じる。この日は丁度見頃を迎えたヤナギランのワンマンショーを行なっているようにも見える。

 とにかく足が前に進まないほど、写真撮影に忙しい。同じような写真ばかりなので、湿原の木道をとにもかくにも前に進める。湿原の花はヤナギランの他にもマツムシソウ、ノアザミ、マルバダケブキ、カワラナデシコ、アヤメ、アキノキリンソウ、ツリガネニンジン、ウスユキソウ、ハクサンフウロ、クガイソウ、ワレモコウなど種類も多く密度が濃い。家内も花の密度の濃さに感動している。おまけに蜜を求めてベニヒカゲ、アサギマダラ、クジャクチョウなど沢山の蝶が舞っている。木道にベニヒカゲが群をなして集まっているところを通過するのは勇気が居るほどだ。


車坂峠(手前右)と黒斑山、その奥に浅間山
 カルデラの崩壊口を通り、三方ヶ峰へのルートを採る。イブキジャコウソウも咲いている。この辺りはマツムシソウの群落が見事だ。とにかく見飽きることなく、次々に咲き誇る花々を愛でながら散策する。高原の風は涼しく、花は満開状態で申し分は無い。

 またこの山域にはコマクサの咲く領域があり、そこには無粋にも頑丈な鉄柵で囲われている。三方ヶ峰と見晴岳の山頂周辺2ヶ所に不釣合いな鉄の柵が設けられている。今は残りの花が僅かに咲いている程度だが、花株は結構な密度で残っていた。2ヶ所を結ぶ山道に入るとマルバハギやトモエシオガマなども見られて、とにかく花園は尽きることを知らない。


マルバダケブキとクジャクチョウ   
 見晴ルートの尾根筋もまたヤナギランに彩られて、赤紫色に染まった斜面の下に湿原が広がっていて、その景色もまた見事の一言に尽きる。気がつけば何だかろくに休憩も無く、次から次へと現れる花々に誘われてずっと歩きづめの状況だ。お陰で「ピグニーの森」の小さい登りは意外なほどきつく感じた。

 すっかり花に酔って駐車場に戻ったが、やはり留めの花を見たくて地蔵峠までバスに乗らず歩いて下ることにした。約一時間の散策路は豊かな森の中を静かに鳥の声を聴きながらだったが、ヤナギランの群生は期待したほどでもなかった。でも花の余韻を感じながらのクールダウンに丁度よいフィナーレとなった。  沖 記

コースタイム:帰省地より松本/鹿教湯温泉経由=== 6:00地蔵峠7:30==(シャトルバス:500円)==7:42池の平駐車場7:45---8:25東篭の塔山(2227.18m)8:45---9:30池の平駐車場9:35--(池の平湿原散策)--10:38三方ヶ峰(2040.12m)10:40---11:05見晴岳11:07---11:45池の平駐車場11:50---12:45地蔵峠13:00===西那須野へ