摩耶山(標高:1019.70m、山形県鶴岡市大字越沢)


H21.10.11

 

林道入り口
 摩耶山塊は鶴岡市の南に南北に連なる1000m前後の山並みであり、日本海に近い豪雪地帯にあって特異な山容を見せる。中でも摩耶山は東側が切れ落ちて急峻で険しく、また西側も渓谷美など標高の割りに登り甲斐のある山とされ、東北100名山、日本300名山にも名を連ねている。摩耶山東側は朝日岳北側登山口の荒沢ダムに接し、その下流の倉沢川から摩耶山へ急峻な倉沢ルートがあるほか、西側には稜線沿いで安全だが距離の長い関川ルート、渓谷美が特徴の越沢ルートがある。越沢ルートにはレベルに応じて上級コースと初級コースがあり、今回は家内も同行しており安全のため越沢ルートの初級コース往復で計画。

 約一ヶ月近く前にこの摩耶山に登ろうと家内と二人で現地まで来て、関川ルートで入山したものの天候に恵まれず追分の手前半ばの尾根ルートとの合流地点までで早々に撤退。越沢にある「まやのやかた」で美味しい手打ち蕎麦を食べて気晴らしをして引き上げた経緯があり、今回は越沢ルートから一ヶ月ぶりのリベンジとなった。ところが前夜泊の鶴岡からここまでの道中にコンビニも食料品店も無く、山での食事は前日の残り物のパンと果物、それに車食用のお菓子少々。お茶だけは宿で貰っていて不足は無いが、この程度の食料で登れるのか甚だ不安だ。


ウノスノ倉(右)とカジ倉(左)
 越沢ルートは摩耶山登山の表玄関のようで、5〜6台駐車可能と言う登山口には自分たちが山の仕度をしている間に既に満車状態になった。大半の登山者は到着と同時に出発できるよう車内で準備しているが、私たちは車を降りてから「やれシャツだ、ズボンだ、靴下だ」とやっているので、到着から出発まで相応の時間がかかってしまう。先発隊も皆中高年組のおばさん中心団体であり、どうも初級コースで登るようだ。

 やっと準備が整って最後発で出発したが、杉林の登山道から直ぐに渓谷沿いの道になる。小潅木や雑草に覆われて渓谷を覗き込めないが、一歩足元をずらすと真っ逆さまに小国川の渓流に飲み込まれて絶命すること間違いない。とにかくきわどい登山道を慎重に歩かねばならず、出端から緊張しっ放しで渓谷に沿って登っていく。景色など見る余裕も無いのに対岸に「ウノスノ倉」、「カジ倉」と言う断崖が現れ、先行きが心配になってくる。

 すぐに沢に下りて渓流に掛かる橋を渡り左岸に移って、ダイモンジソウの咲く湿っぽく滑りやすい岩場をへつる様に進む。コースタイム通りの時間で初心者コース、ベテランコースの分岐に到着。先発隊は皆、初心者コースを採ったようである。初心者コースは直ぐに小さな滝を巻いて上部でその沢を越えなければならず、その沢越えでおばさん連中はもたついて時間がかかるため、先発隊の行動が下(後方)からでも分かってしまうことによる。

 沢越えの足場は滑りやすく緊張するが、ポンポンと渡ると簡単に通過できる。ところが家内は一歩一歩を確実に滑りやすい足場に置こうとするので、かえって危険で見ちゃいられない。杖を出してバランスをとらせ、足場を教えてようやく脱出。あとは体力勝負の登りが待っているだけだ。

 杉林からブナの森に植生が変わると歩いていてホッとするが、標高が少しずつ高まるに連れて緑色が徐々に薄れて黄色味が濃くなってくるグラデーションが何とも言えず美しい。急坂もなんのそのだ。よく見ると急斜面に育った樹木の幹は弓なりに大きく反ってから上空に伸びている。


ベテランコース降り口付近から見た
山頂(右)と中の山、南の山の岩峰
 また台風一過の後だったためか足元に時々真新しい山葡萄が房ごと落ちていて、見上げるとその付近に山の幸がたわわに実っている。綺麗な房を拾って口にほうばる。少し甘くて酸っぱい味が口の中を充満し、乾いた喉を湿らせてくれる。ペッペッと種を吹出す。うまい。酸っぱい。美味しい。食べながら登っていくので、急斜面も苦にならない。

 関川コースとの分岐地点の追分に到着。ここはブナが綺麗な所で、幅広の稜線上に延びた登山道が山頂に向かっている。ゆっくり休憩して山頂への体力、気力を充電する。持参した梨をほうばる。水分たっぷりで甘くて美味しい。先ほどの山葡萄とはまた違った野性味に乏しいが優等生の味がする。小腹を満たすために乏しい食料からチョコレートとパンを少し食べる。とにかくこれで山頂まで頑張るしかない。

 気合を入れ直して稜線上のブナ林を眺めながらゆっくり確実に標高を稼いでいく。足元が湿っぽくなって谷間の道になると水場があり、避難小屋は直ぐその上のブナ林の中にあった。追分から以外と近い距離にあった。避難小屋の中を覗くと壁には刈り祓い用の草刈機が掛けられていた。床は張られてないので土間にシートを敷いて休むようになる。

 避難小屋から先も暫く緩やかな登りが続き、山頂稜線部を見ながら赤味を増した尾根を進む。尾根にロープが掛かり「鼻くくり坂(八合目)」という看板を見ると、胸突き八丁になり最後の頑張りどころが続く。山頂までもう少しと言うところに六地蔵があり、家内はそこで力尽きて休憩。少し充電して再び歩き出すとものの10分で待望の摩耶山山頂に到着した。山頂直下で倉沢コースからのルートが合流し、眼下に鉾ヶ峰(中の山)と鑓ヶ峰(南の山)の岩峰が見える。足元が切れ落ちているのが分かりゾクゾクッとする一瞬だ。その先には山頂まで東側が急峻な谷になっているので、ずっと西側潅木に沿ってロープが亘されている。緊張しながら先発隊が憩う山頂に到着だ。うれしい。


ロープの張られた山頂への道
 狭い山頂に10数名が憩うので誰かが天辺から落ちこぼれるのではと心配するほどの賑わいだが、山頂にある大きな一等三角点は団体さんに占拠されていていつもの挨拶は後回しにして質素な昼食とする。足元の先1m向こうはもう深い谷になっているので、立ち上がりにふらつくと危険極まりない。カメラを構えるのも緊張するが、足元の先に荒沢ダムが見える。このダムの上流の先に見えないけれど、朝日連峰の大鳥池があり、以東岳へと繋がっているそんな場所だ。そんな谷を越えた向こうにはガスで山麓しか見えないけれど朝日連峰がデンと大きい。東方向にはやはり山頂部を隠した月山が存在感を示している。

 背後には日本海が水平線を示していて、粟島が微かに見える。温海温泉の北にある温海岳はほぼ同定できるが、新潟県境の日本国はどの山だと探すが断定できない。その他の山については初見参がほとんどで、正直言って名前すら知らない山域だ。


山頂の沖御夫妻
 山頂で休んでいるうちに潮が引くように登山者が初心者コースを降りていく。結局、この日は知る限りにおいてベテランコースを歩いた人は居なかったと思われる。静かになった山頂でゆっくり紅葉を楽しみながら写真を撮る。また一等三角点(点名:摩耶山、標高:1019.70)にタッチし、いつもの儀式として沢山の願い事を祈願する。

 摩耶山の狭い山頂には大きな18cm角の一等三角点と、その傍に「摩耶山1,019m」と書かれた標柱、随分アバウトに描かれた展望板が設置されている。狭い山頂にいつまでも憩っているわけにも行かず、滑って転ばないうちに早々に下山準備をする。念のためにベテランコースの降り口まで足を延ばして確認したが、急坂を一直線に下っていて滑りやすくて下りに用いるのは大変だと納得して諦めた。ここから山頂部を眺めると東側が切れ落ちていることが良くわかり、家内ではないが「お尻がもぞもぞする」という気持ちが良くわかる。


粟島−温海岳方面の展望
 下山も急坂で慎重に下っていく。それでも登りより随分楽であり、時間も短縮できる。追分を過ぎ急坂を下っているときに、谷の向こう側で何か動くものを発見。よく注意して見るとサルの家族が数匹、上に向かって移動中だった。猿の方でも私たちの存在を意識したのか暫くじっとしていたが、やがてまた元通りに上のほうに移動し出した。

 無事に下山し、気になっていた山を一つ登りホッとする。お陰さまで大満足状態で、越沢名物の蕎麦も食べずに帰路に就いた。 沖 記

コースタイム:越沢林道入口855==(2.1Km)==900越沢登山口925---950初級・上級コース分岐952---1032七ツ滝分岐1035---1100追分(関川ルート分岐)1110---1120避難小屋---1152六地蔵1200---1210摩耶山山頂(標高:1019.70m、昼食)1255---1338追分1343---14:10七ツ滝分岐---1440初級・上級コース分岐---1505越沢登山口1520==(2.1Km)==1525越沢林道入口